Chapter 5: 熱 メグミンが目を覚ましたとき、カズマの体温が異常に高いことに気づいた。 「熱い……?」 カズマは腕の中でぐったりとしていた。普段の元気な様子とは違う。メグミンは額に手を当てた。熱があった。かなり高い。 「カズマ!」 メグミンは慌てた。カズマは弱々しく目を開けた。その目には力がなかった。 「どうした、しっかりしろ!」 メグミンはカズマを揺すった。カズマは小さく泣き声を上げた。いつもの元気な泣き方ではない。か細い、弱々しい声だった。 メグミンは焦った。赤ん坊の発熱は危険だと聞いたことがある。すぐに対処しなければ。 だが、どうすればいい? メグミンには知識がなかった。 「ウィズ……ウィズに聞けば」 メグミンはカズマを抱いて部屋を飛び出した。階段を駆け下りる。宿の主人が驚いた顔をした。 「どうしたんだ、そんなに慌てて」 「赤ん坊が熱を出したんだ!」 メグミンは叫んだ。宿の主人は眉をひそめた。 「医者を呼んだ方がいいんじゃないか」 「時間がない! ウィズの店に行く!」 メグミンは宿を飛び出した。朝の街を駆け抜ける。カズマは腕の中で小さく震えていた。 ウィズの魔道具店は静かだった。メグミンはドアを蹴破るように開けた。 「ウィズ!」 店の奥からウィズが現れた。驚いた顔をしている。 「メグミンさん? どうしたんですか」 「カズマが熱を出した! 高熱だ!」 メグミンはカズマを見せた。ウィズは表情を変えた。カズマに近づいて額に手を当てる。 「本当ですね……かなり高いです」 「これは薬のせいか!? あの若返りの薬の副作用か!?」 メグミンは問い詰めた。ウィズは申し訳なさそうに頷いた。 「はい……若返りの薬には副作用があります。一時的に体調が不安定になることがあるんです」 「なぜ先に言わなかった!」 「ごめんなさい……全員に起こるわけではないので……」 ウィズは謝った。メグミンは苛立ちを覚えたが、今はそれどころではない。 「どうすればいい? 治療法は?」 「残念ながら……特別な治療法はありません。安静にして、熱を下げるしか」 「それだけか!?」 メグミンは叫んだ。ウィズは困った顔をした。 「申し訳ありません……でも、心配しないでください。一時的なものですから。数日で治まります」 「数日!?」 メグミンは愕然とした。カズマは腕の中で弱々しく泣いている。その声がメグミンの心を締め付けた。 「わかった……私が看病する」 メグミンは決意した。ウィズは心配そうな顔をした。 「大丈夫ですか? 一人で?」 「一人で十分だ」 メグミンは強く言った。ウィズは何か言いかけたが、やめた。代わりに、店の奥から水と布を持ってきた。 「これを使ってください。額を冷やすといいです」 「ありがとう」 メグミンは受け取った。ウィズは優しく微笑んだ。 「頑張ってください、メグミンさん。カズマさんは大丈夫ですよ」 メグミンは頷いた。カズマを抱いて店を出る。宿への帰り道、カズマの泣き声が弱まっていった。メグミンは急いだ。 *** 部屋に戻ると、メグミンはすぐにカズマを寝かせた。ウィズから貰った布を水で濡らして、カズマの額に当てる。カズマは目を閉じていた。呼吸が荒い。 「大丈夫だ……すぐに良くなる」 メグミンは自分に言い聞かせた。カズマの手を握る。小さくて、熱い。 カズマが泣き始めた。弱々しい泣き声だった。メグミンは抱き上げた。 「泣くな……大丈夫だ」 だが、カズマは泣き続けた。メグミンは揺すった。歌を歌った。だが、カズマは泣き止まなかった。 時間が過ぎた。カズマは泣き続けた。メグミンは必死にあやした。ミルクを作った。カズマは飲まなかった。おむつを替えた。カズマは泣き続けた。 「どうすればいいんだ……」 メグミンは途方に暮れた。カズマの泣き声が部屋に響く。メグミンの心は焦りでいっぱいだった。 ドアをノックする音がした。 「メグミン、開けて!」 ゆんゆんの声だった。メグミンは迷った。ドアを開けるべきか。 「メグミン! 泣き声が聞こえるわよ! 何かあったの!?」 ゆんゆんは心配そうだった。メグミンはドアを開けた。 ゆんゆんが飛び込んできた。カズマを見て、表情を変えた。 「カズマくん、熱があるの?」 「ああ……若返りの薬の副作用だ」 メグミンは説明した。ゆんゆんはカズマに近づいた。 「手伝うわ。一人じゃ大変でしょう」 「必要ない」 メグミンは即座に答えた。ゆんゆんは驚いた顔をした。 「でも……」 「私一人で十分だ」 メグミンは頑なだった。ゆんゆんは困惑した表情をした。 「メグミン、意地を張らないで。カズマくんのためよ」 「わかっている」 メグミンは強く言った。ゆんゆんは何か言いかけたが、メグミンの目を見て黙った。 「わかったわ……でも、何かあったら呼んでね」 ゆんゆんは心配そうに言った。メグミンは頷いた。 「ああ」 ゆんゆんは部屋を出た。ドアが閉まる。再び静寂が戻った。いや、静寂ではない。カズマの泣き声が響いている。 メグミンはカズマを抱き上げた。 「お前は私が看病する。他の誰でもない」 カズマは泣き続けた。メグミンは歌を歌った。紅魔族の子守唄を。だが、カズマは泣き止まなかった。 *** 夜になった。 カズマの熱は下がらなかった。むしろ、悪化していた。カズマは泣き続けた。か細い、弱々しい声で。 メグミンは眠らなかった。一睡もせずにカズマの世話をした。額の布を何度も替えた。ミルクを作った。カズマは飲まなかった。 「頼む、飲んでくれ……」 メグミンは懇願した。だが、カズマは首を振った。 メグミンは絶望を感じた。何をしてもカズマの容態は良くならない。自分は無力だ。 カズマがまた泣き始めた。メグミンは抱き上げた。カズマの体温が異常に高い。メグミンは怖くなった。 「死なないでくれ……」 メグミンは呟いた。涙が溢れそうになった。 「お前は死なない……絶対に死なせない」 メグミンはカズマを強く抱きしめた。カズマは泣き続けた。 時計が真夜中を告げた。メグミンは疲労困憊だった。だが、休むわけにはいかない。カズマが心配だった。 カズマの泣き声が弱まった。メグミンは下を向いた。カズマが目を閉じている。眠ったのか。 メグミンはカズマをベッドに寝かせた。額に手を当てる。まだ熱い。だが、少しだけ下がっている気がした。 「良かった……」 メグミンは安堵した。カズマは穏やかな顔で眠っている。 メグミンは隣に横になった。カズマの手を握る。温かかった。 「お前は大丈夫だ……絶対に大丈夫だ」 メグミンは自分に言い聞かせた。目を閉じる。疲労が襲ってきた。 だが、眠れなかった。カズマの容態が心配で、目を閉じることができない。 メグミンはカズマを見つめた。小さくて、弱々しくて、頼りない存在。だが、確かに大切な存在だった。 「お前は私が守る」 メグミンは呟いた。カズマは眠り続けていた。 *** 翌朝、メグミンは目を覚ました。 いや、眠っていなかった。一睡もしていない。ただ、目を閉じていただけだ。 カズマはまだ眠っていた。メグミンは額に手を当てた。熱があった。まだ高い。 メグミンは立ち上がった。フラフラする。身体が動かない。 だが、休むわけにはいかない。カズマのために。 メグミンは新しい布を水で濡らした。カズマの額に当てる。カズマは目を覚まさなかった。 メグミンは心配になった。起きないのは良くない兆候なのか。それとも、眠っている方がいいのか。 メグミンは知らなかった。赤ん坊の看病の知識など、何もなかった。 ドアをノックする音がした。 「メグミン?」 アクアの声だった。メグミンは迷った。だが、ドアを開けた。 アクアとダクネスが立っていた。二人とも心配そうな顔をしている。 「ゆんゆんから聞いたわ。カズマが熱を出したって」 アクアが言った。メグミンは頷いた。 「ああ」 「私が治療してあげるわ! 女神の力で!」 アクアは自信満々に言った。メグミンは首を振った。 「必要ない」 「でも――」 「私が看病する」 メグミンは強く言った。アクアは困った顔をした。 「メグミン、意地を張るのはよくないわよ」 「意地ではない」 メグミンは否定した。ダクネスが口を開いた。 「メグミン、お前は疲れている。少し休んだ方がいい」 「休む必要はない」 「だが――」 「カズマは私が看病する。お前たちは帰ってくれ」 メグミンは冷たく言った。アクアとダクネスは顔を見合わせた。 「わかったわ……でも、無理しないでね」 アクアは心配そうに言った。メグミンは頷いた。 「ああ」 二人は部屋を出た。ドアが閉まる。メグミンはカズマのところに戻った。 カズマはまだ眠っていた。メグミンは手を握った。 「お前は私が看病する。他の誰でもない」 *** 昼過ぎ、カズマが目を覚ました。 そして、泣き始めた。激しく、苦しそうに。メグミンは抱き上げた。 「大丈夫だ……大丈夫だ」 メグミンは繰り返した。だが、カズマは泣き止まなかった。 メグミンはミルクを作った。カズマの口に近づける。カズマは拒否した。 「飲んでくれ……お願いだ」 メグミンは懇願した。カズマは首を振った。 メグミンは絶望した。何をしてもカズマは泣き止まない。熱は下がらない。 「どうすればいいんだ……」 メグミンは呟いた。涙が溢れそうになった。 カズマが激しく泣いた。メグミンは抱きしめた。カズマの体温が高い。心配だった。 「頼む……泣き止んでくれ」 メグミンは祈った。だが、カズマは泣き続けた。 時間が過ぎた。カズマは泣き続けた。メグミンは抱き続けた。腕が痛い。身体が重い。だが、離すわけにはいかない。 夕方になった。カズマの泣き声が少し弱まった。メグミンは下を向いた。カズマが眠りかけている。 「眠るんだ……」 メグミンは優しく言った。カズマは目を閉じた。 メグミンはカズマをベッドに寝かせた。額の布を替える。まだ熱い。 メグミンは隣に横になった。カズマを見つめる。 「お前は大丈夫だ……絶対に大丈夫だ」 メグミンは自分に言い聞かせた。だが、不安は消えなかった。 *** 二度目の夜が来た。 カズマの熱はまだ下がらなかった。メグミンは一睡もせずに看病を続けた。 カズマは泣き続けた。夜通し、ずっと。メグミンは抱き続けた。歌を歌った。あやした。だが、カズマは泣き止まなかった。 メグミンの身体は限界だった。目がかすむ。手が震える。だが、休むわけにはいかない。 「お前は私が守る……絶対に守る」 メグミンは呟いた。カズマは泣き続けた。 時計が真夜中を告げた。メグミンは立ち上がった。フラフラする。倒れそうになった。 だが、踏みとどまった。カズマのために。 メグミンはカズマを抱いた。部屋の中を歩く。カズマは泣き続けた。 「泣き止んでくれ……頼む」 メグミンは懇願した。涙が溢れそうになった。 「お前が苦しんでいるのを見るのは辛いんだ……」 メグミンは認めた。カズマは泣き続けた。 メグミンは歌った。紅魔族の子守唄を。何度も何度も。 「眠れ、我が子よ、紅き炎の子よ――」 カズマの泣き声が少し弱まった。 「明日は来る、爆裂の朝が――」 メグミンは歌い続けた。カズマは泣くのをやめた。 「眠れ、眠れ、紅き瞳の子よ――」 カズマが目を閉じた。メグミンは歌い続けた。 「夢の中で爆裂魔法を――」 カズマは眠りについた。メグミンは歌を止めた。静寂が戻った。 メグミンは大きく息をついた。カズマをベッドに寝かせる。額に手を当てた。 熱があった。まだ高い。だが、少しだけ下がっている気がした。 メグミンは安堵した。カズマの手を握る。 「良かった……」 メグミンは呟いた。涙が溢れた。 「本当に良かった……」 メグミンは泣いた。静かに、声を殺して。カズマが起きないように。 「お前が心配だったんだ……」 メグミンは認めた。カズマの手を握りしめる。 「お前がいなくなったら……私は……」 メグミンは言葉に詰まった。何を言おうとしているのか、自分でもわからなかった。 メグミンはカズマの頬に触れた。まだ熱い。だが、確かに下がっている。 「お前は大丈夫だ……もう大丈夫だ」 メグミンは呟いた。カズマは穏やかな顔で眠っている。 メグミンは隣に横になった。カズマを抱きしめる。 「お前は私のものだ……誰にも渡さない」 メグミンは宣言した。カズマは眠り続けていた。 メグミンは目を閉じた。疲労が襲ってきた。だが、今は眠れる気がした。カズマの容態が良くなったから。 「お前は私が守る……ずっと」 メグミンは呟いた。カズマの温かさが心地よかった。 *** 翌朝、メグミンは目を覚ました。 カズマはまだ眠っていた。メグミンは額に手を当てた。 熱が下がっていた。完全ではないが、確実に下がっていた。 メグミンは安堵した。カズマは大丈夫だ。もう大丈夫だ。 カズマが目を覚ました。メグミンを見上げる。その目には力があった。昨日までとは違う。 「カズマ……」 メグミンは呟いた。カズマは小さく笑った。 メグミンは涙が溢れた。止められなかった。 「良かった……本当に良かった」 メグミンはカズマを抱きしめた。強く、優しく。 「お前がいなくなったら……私は……」 メグミンは言葉に詰まった。だが、心の中ではわかっていた。 自分がどれほどカズマを大切に思っているか。 「お前は私の大切な仲間だ」 メグミンは呟いた。カズマはメグミンの服を掴んだ。 「いや……仲間以上だ」 メグミンは認めた。カズマを見つめる。 「お前は……私にとって特別な存在だ」 カズマはメグミンを見上げていた。その目には何か理解しているような光があった。 メグミンはカズマを抱きしめた。涙が止まらなかった。 「ありがとう……生きていてくれて」

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