## Chapter 11: 秘密の隠し場所 メグミンは宿の部屋に戻り、無事に手に入れた月光草をカズマに見せた。「カズマ、見てくれ。これで、お前を元の姿に戻すことができるぞ」と、満面の笑みで告げる。カズマはメグミンの腕の中で、きゃっきゃと笑い、その小さな手を伸ばして月光草に触ろうとする。 しかし、その瞬間、メグミンはどっと疲労を感じた。夜の森での下見と採取、グロースボアとの戦闘、道に迷ったことなど、様々な出来事が一気に押し寄せ、まるで糸が切れた人形のように、その場にへたり込んでしまった。 「あー…、疲れた…」 メグミンは小さく呟き、月光草を握りしめたまま、ベッドに倒れ込んだ。天井がぼやけて見える。全身の筋肉が悲鳴を上げているようだった。 隣では、カズマが心配そうにメグミンの顔を覗き込んでいる。 「ごめん、カズマ。ちょっとだけ、休憩させてくれ」 メグミンはそう言うと、目を閉じた。すぐにでも月光草から解毒薬を作って、カズマを元の姿に戻してあげたい気持ちはある。しかし、今の状態では、集中して薬を作る自信がなかった。下手をすれば、逆にカズマに害を与えてしまうかもしれない。 メグミンは、意識を失うように眠りについた。 どれくらいの時間が経っただろうか。 ふと、カズマの泣き声で目が覚めた。 「うぇーん!うぇーん!」 カズマはベッドの上で、体をよじりながら泣き叫んでいる。どうやら、お腹が空いたようだ。 メグミンはゆっくりと体を起こし、カズマを抱き上げた。「どうした、カズマ?お腹が空いたのか?」 カズマはメグミンの胸に顔を埋め、さらに大きな声で泣き出した。 「よしよし、わかったから。今、ミルクを作ってやるからな」 メグミンはカズマをあやしながら、ミルクの準備を始めた。お湯を沸かし、粉ミルクを溶かし、適温になるまで冷ます。その間も、カズマは泣き止むことはなかった。 ようやくミルクが完成し、カズマに飲ませると、カズマは勢いよくミルクを飲み始めた。その様子を見ていると、メグミンの心も少しずつ落ち着いてきた。 カズマがミルクを飲み終えると、メグミンはゲップをさせ、再びベッドに寝かせた。カズマは満足したのか、すぐに眠りについた。 メグミンは、カズマの寝顔をじっと見つめた。すやすやと眠るその顔は、まるで天使のように愛らしい。 その時、ふと、メグミンの頭の中に、ある考えがよぎった。 (…このまま、赤ん坊のままでも、いいんじゃないか…?) メグミンは、自分の考えに驚いた。自分は一体何を考えているんだ?カズマを元の姿に戻すために、あんなに苦労して月光草を手に入れたのに。 しかし、心の奥底では、カズマが赤ん坊のままでいることを、少しだけ望んでいる自分がいた。 赤ん坊のカズマは、わがままで、手がかかるけれど、とても素直で、可愛らしい。メグミンは、そんなカズマの世話をしているうちに、今まで感じたことのない感情を抱くようになっていた。それは、まるで母親のような、優しい愛情だった。 もし、カズマが元の姿に戻ってしまったら、きっと、またいつものように、生意気で、ずる賢い、カズマに戻ってしまうだろう。そして、メグミンは、そんなカズマに、きっと、また腹を立てることになるだろう。 (…もう少しだけ、このまま…) メグミンはそう思うと、無意識のうちに、月光草を隠してしまった。 月光草は、メグミンがいつも持ち歩いている、魔法の杖を入れるための袋の中に、そっと隠された。 メグミンは、自分が何をしているのか、よくわからなかった。ただ、カズマが元に戻るのを、ほんの少しだけ、引き延ばしたかった。 メグミンは、カズマの隣に横になり、カズマを優しく抱きしめた。 「明日、必ず作ってあげるからな…」 メグミンは、カズマにそう囁き、再び眠りについた。 翌朝、メグミンは眩しい日差しで目を覚ました。  隣には、すやすやと眠るカズマの姿。その小さな寝顔を見ていると、メグミンはまた、胸が締め付けられるような、優しい気持ちになった。  (…本当に、どうしよう…)  メグミンは、心の中で葛藤していた。カズマを元の姿に戻すべきか、それとも、もう少しだけ、このままにしておくべきか。  理性では、早く元の姿に戻してあげるべきだとわかっている。しかし、感情は、それを拒否していた。  メグミンは、ゆっくりと体を起こし、そっとカズマに触れた。その小さな手を握ると、カズマはうっすらと目を開け、メグミンの顔を見ると、嬉しそうに笑った。  その笑顔が、メグミンの心をさらに揺さぶる。  「…おはよう、カズマ」  メグミンは、優しい声でそう言うと、カズマを抱き上げた。カズマは、メグミンの胸に顔を埋め、甘えるように擦り寄ってきた。  その時、メグミンは、はっとした。  (…もしかして、カズマは…)  メグミンは、カズマの行動に、ある違和感を覚えていた。赤ん坊のくせに、まるで、自分のことを理解しているかのような、そんな素振りを見せるのだ。  まさか、そんなことはありえない。赤ん坊は、ただ本能のままに生きているだけだ。そう思おうとしたが、どうしても、その考えを否定することができなかった。  メグミンは、意を決して、カズマに話しかけてみた。  「…カズマ、私のこと、わかるのか?」  カズマは、メグミンの顔を見つめ、ニコニコと笑っている。まるで、メグミンの言葉を理解しているかのように。  メグミンは、さらに問いかけた。「…私の名前は?」  カズマは、少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。「…め…ぐ…み…ん」  メグミンは、驚きのあまり、言葉を失った。  まさか、本当に、カズマが自分のことを理解しているなんて。  「…カズマ…、お前…」  メグミンは、震える声でそう言うと、カズマを強く抱きしめた。  カズマは、メグミンの胸の中で、満足そうに笑っている。  その時、メグミンは、全てを悟った。  カズマは、ただの赤ん坊ではない。中身は、あの生意気で、ずる賢い、カズマのままなのだ。  ただ、姿が赤ん坊になってしまっただけで、記憶も、感情も、全てそのままなのだ。  (…どうしよう…、これから…)  メグミンは、途方に暮れた。カズマが赤ん坊の姿のままで、自我を持っていると知ってしまった今、今までのように、無邪気に世話をすることはできない。  それに、カズマは、これから一体どうなってしまうのだろうか。このまま、赤ん坊の姿で成長していくのだろうか。  メグミンは、不安と困惑で、頭がいっぱいになった。  しかし、同時に、ある感情が湧き上がってきた。それは、喜びとも、期待とも言える、不思議な感情だった。  カズマが、赤ん坊の姿のままで、自分のことを理解している。それは、メグミンにとって、これまで経験したことのない、特別な出来事だった。  (…もしかしたら、これは…)  メグミンは、そう思った。カズマとの関係が、これから大きく変わっていくかもしれない、と。  その日、メグミンは、カズマを連れて、ウィズの店へ向かった。  ウィズに、カズマが自我を持っていることを伝えると、ウィズは、驚いた顔で、こう言った。  「…それは、大変なことになりましたね…」  ウィズは、少し考えてから、こう続けた。「…もしかしたら、若返りの薬の副作用で、精神に異常をきたしているのかもしれません。一度、専門家に見てもらった方がいいかもしれませんね」  メグミンは、ウィズの言葉に、少し不安になった。  しかし、カズマは、メグミンの顔を見つめ、ニコニコと笑っている。その笑顔を見ていると、メグミンは、なぜか安心できた。  「…大丈夫だ。カズマは、大丈夫だ」  メグミンは、ウィズにそう言うと、カズマを抱きしめた。  その夜、メグミンは、カズマと一緒に、ベッドの中で、色々な話をした。  もちろん、カズマは、まだ言葉を話すことができないので、身振り手振りと、片言の言葉でしか、コミュニケーションを取ることができない。  しかし、それでも、メグミンは、カズマの気持ちを、しっかりと受け止めることができた。  カズマは、赤ん坊の姿になってしまったことへの、戸惑いや不安、そして、メグミンへの感謝の気持ちを、一生懸命伝えようとしていた。  メグミンは、カズマの気持ちに応えるように、優しく微笑み、カズマを抱きしめた。  その夜、メグミンは、カズマとの絆が、さらに深まったことを感じた。  そして、メグミンは、ある決意を固めた。  カズマが、どんな姿になろうとも、どんな状況になろうとも、自分が、カズマのそばにいて、支えていこう。  メグミンは、そう心に誓った。  翌朝、メグミンは、目を覚ますと、まず、カズマの顔を見た。  カズマは、すやすやと眠っている。その小さな寝顔を見ていると、メグミンは、また、胸が締め付けられるような、優しい気持ちになった。  メグミンは、カズマの頬をそっと撫で、こう囁いた。  「…おはよう、カズマ。今日も、一緒に頑張ろうな」

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