Chapter 13: 優しい温もり

宿の女将に抱きかかえられたカズマを見つけたメグミンは、安堵から涙が止まらなかった。まさか、こんな近くにいたなんて。

「カズマ! 本当に、ごめんなさい! 心配かけたわね!」

メグミンは女将に深々と頭を下げた。

「本当に、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」

女将は優しく微笑み、メグミンの肩に手を置いた。

「いいえ、気にしないで。元気な赤ちゃんね。少しの間、私に抱かせてあげて」

女将はそう言うと、カズマを మరింతしっかりと抱きしめた。メグミンは一瞬戸惑った。なぜ、女将がそこまでカズマを抱きたがるのだろうか。しかし、女将の優しい表情を見て、拒否することができなかった。

「…はい、構いませんけど…」

メグミンは少し遠慮がちに答えた。女将は嬉しそうに微笑み、カズマに優しく話しかけた。

「あらあら、可愛いお顔ね。おばあちゃんが、いっぱい可愛がってあげるわよ」

女将はカズマをあやし始めた。優しく揺らしたり、歌を歌ったり。カズマも女将のことが気に入ったのか、ニコニコと笑いかけている。メグミンは、その様子を複雑な気持ちで見つめていた。

(女将さん、まるで本当のおばあちゃんみたい…)

女将はカズマを抱きながら、宿の厨房へと向かった。

「ちょっとミルクを温めてくるわね。この子は、お腹が空いているんじゃないかしら」

メグミンは慌てて後を追った。

「あ、私がやります! ミルクなら、ちゃんと用意してありますから」

しかし、女将はメグミンを制した。

「いいのよ、いいのよ。少しだけ、私にさせて。久しぶりに、赤ちゃんの世話をしたくなったの」

女将はそう言うと、手慣れた様子でミルクを温め始めた。メグミンは、ただ見ていることしかできない。

(…なんだか、私よりもずっと手際がいい…)

ミルクの準備ができると、女将はカズマにミルクをあげ始めた。カズマは美味しそうにミルクを飲み、あっという間に飲み干してしまった。

「ほら、やっぱりお腹が空いていたのね。良い飲みっぷりだこと」

女将は満足そうに微笑んだ。メグミンは、少しだけ嫉妬心を覚えていた。

(…私が、もっとちゃんとカズマの世話をしていれば…)

カズマはミルクを飲み終えると、女将の腕の中で眠ってしまった。女将は、その寝顔を優しく見つめていた。

「本当に、可愛い子ね。見ていると、昔のことを思い出すわ」

メグミンは、女将に尋ねた。

「昔のこと、ですか?」

女将は少し寂しそうな表情で答えた。

「ええ。私にも、昔は子供がいたの。でも、もうずっと前に亡くなってしまって…」

メグミンは、言葉を失った。女将にも、辛い過去があったのだ。

「…そうだったんですね…」

女将は、悲しみを押し殺すように微笑んだ。

「この子を見ていると、その子のことを思い出すの。だから、少しの間だけでも、抱かせてほしかったのよ」

メグミンは、女将の気持ちが痛いほど分かった。だからこそ、何も言えなかった。

しばらくの間、女将はカズマを抱きながら、静かに昔話を語ってくれた。メグミンは、それをただ静かに聞いていた。

女将の話は、自身の子供との思い出、子育ての苦労、そして、子供を亡くした悲しみについてだった。メグミンは、女将の言葉に深く共感し、涙が止まらなかった。

(…私も、いつかこんな風になるのかな…)

メグミンは、カズマへの愛情を改めて感じた。同時に、母親としての責任感も強く感じた。

どれくらいの時間が経っただろうか。女将は、満足したように微笑んだ。

「さて、そろそろこの子を返してあげないとね。いつまでも、私だけのものにはできないわ」

女将は、名残惜しそうにカズマをメグミンに差し出した。

「ほら、メグミンさん。あなたの可愛い赤ちゃんよ」

メグミンは、両手でカズマを受け取った。カズマは、まだ眠っている。その寝顔は、天使のように無邪気だった。

「ありがとうございます、女将さん。本当に、感謝しています」

メグミンは、改めて女将に頭を下げた。

女将は、メグミンの目をまっすぐ見つめた。

「メグミンさん。あなたは、本当に良いお母さんになるわね」

メグミンは、その言葉にハッとした。

「…お母さん、ですか…?」

女将は、優しく微笑んだ。

「ええ。この子に対するあなたの愛情を見ていると、そう思うわ。あなたは、きっとこの子を幸せにできる」

メグミンは、顔を赤らめた。

「…そ、そんなこと…」

女将は、メグミンの背中をそっと押した。

「自信を持ちなさい。あなたは、立派なお母さんよ」

メグミンは、女将の言葉に勇気づけられた。

「…はい! ありがとうございます!」

メグミンは、カズマを抱きしめ、自分の部屋へと戻った。

部屋に戻ると、メグミンはベッドに腰を下ろした。カズマは、まだ眠っている。メグミンは、その寝顔をじっと見つめていた。

(…私が、カズマのお母さん…)

メグミンは、まだ実感が湧かなかった。しかし、女将の言葉を思い出すと、胸が熱くなった。

(…そうだ。私は、カズマを守らなければ…)

メグミンは、カズマへの愛情を改めて感じた。同時に、母親としての責任感も強く感じた。

(…明日は、必ず月光草で解毒薬を作るんだ…)

メグミンは、心に誓った。カズマを、元の姿に戻してあげなければ。そして、カズマがいつまでも幸せでいられるように、私が守ってあげなければ。

メグミンは、カズマをそっと抱きしめた。

「カズマ、大好きだよ」

その言葉は、カズマに届いたかどうか分からない。しかし、メグミンの心からの叫びだった。

メグミンは、カズマを抱きしめたまま、月光草を手に取り、静かに見つめ た。その瞬間、メグミンの体から力が抜け、ベッドに倒れ込んでしまった。

「…っ、疲れた…」

メグミンは、天井を見上げながら、そう呟いた。カズマの世話は、想像以上に大変だった。特に、熱を出した時は、本当に辛かった。

(…でも、それももうすぐ終わるんだ…)

メグミンは、そう思うと、少し寂しい気持ちになった。カズマが元の姿に戻ってしまうのは、嬉しいことのはずなのに、なぜか心が痛んだ。

(…もしかして、私は…)

メグミンは、自分の気持ちに気づき始めた。カズマのことを、ただの仲間としてではなく、それ以上の存在として見ているのかもしれない。

(…そんなこと、ありえない…)

メグミンは、必死に否定した。カズマは、ただのスケベで、怠惰な男だ。そんな男のことを好きになるはずがない。

しかし、カズマの笑顔を思い出すと、胸がドキドキしてしまう。あの無邪気な笑顔、あの甘えん坊な仕草、全てが愛おしくてたまらない。

(…どうしよう…)

メグミンは、自分の気持ちに戸惑っていた。この気持ちを、カズマに伝えるべきなのだろうか。それとも、このまま胸にしまっておくべきなのだろうか。

(…今は、まだ考えられない…)

メグミンは、そう結論付けた。まずは、カズマを元の姿に戻すことが先決だ。自分の気持ちは、その後でゆっくり考えればいい。

メグミンは、月光草を手に取り、深呼吸をした。そして、解毒薬の調合に取り掛かった。

今回は、絶対に失敗しない。カズマのためにも、自分のためにも、必ず成功させる。

メグミンは、ウィズに教わった手順を思い出しながら、慎重に薬草を刻み始めた。お湯を沸かす際も、手が震えることはなかった。

(…落ち着いて、落ち着いて…)

メグミンは、自分に言い聞かせながら、作業を進めていった。

数時間後、メグミンは、ついに解毒薬を完成させた。

「…できた…!」

メグミンは、達成感に満ち溢れていた。これで、カズマを元の姿に戻すことができる。

メグミンは、カズマを優しく起こした。

「カズマ、起きて。薬ができたわ」

カズマは、眠たげな目を擦りながら、メグミンを見つめた。

「あー、あー」

メグミンは、カズマに解毒薬を飲ませようとした。しかし、カズマは嫌がって、なかなか飲もうとしない。

「カズマ、これは薬だよ。これを飲めば、元の姿に戻れるんだ」

メグミンは、優しく言い聞かせた。カズマは、メグミンの言葉を理解したのか、おとなしく薬を飲み始めた。

薬を飲み終えると、カズマは少し苦しそうな表情を浮かべた。

「…うっ…」

メグミンは、心配そうにカズマを見つめた。

「大丈夫?どこか痛い?」

カズマは、首を横に振った。そして、メグミンの顔をじっと見つめた。

その瞬間、カズマの体から光が放たれた。

「…え…?」

メグミンは、目を丸くした。光が収まると、そこには、赤ん坊の姿ではなく、元のカズマの姿があった。

「…カズマ…!」

メグミンは、思わずカズマの名前を呼んだ。カズマは、ゆっくりと目を開け、メグミンを見つめた。

「…メグミン…?俺は…」

カズマは、自分の体に触れ、驚いた表情を浮かべた。

「…元に戻ったのか…?」

メグミンは、嬉しさのあまり、涙が溢れてきた。

「…うん、カズマが元に戻ったんだ…!本当に、よかった…!」

メグミンは、カズマに抱きつこうとした。しかし、カズマはそれを避けた。

「…ちょ、ちょっと待てよ。一体何があったんだ?俺は、一体何日間寝ていたんだ?」

カズマは、混乱した様子で、メグミンに質問した。

メグミンは、カズマに全てを説明した。若返りの薬を飲んでしまったこと、赤ん坊になってしまったこと、そして、メグミンが一生懸命世話をしてくれたこと。

カズマは、メグミンの話を聞き終えると、呆然とした表情を浮かべた。

「…マジかよ…俺が、赤ん坊に…?しかも、メグミンに世話をされてたってのか…?」

メグミンは、顔を赤らめた。

「…そ、そうよ。でも、カズマは何も覚えてないんでしょ?」

カズマは、少し考え込んだ。

「…いや、なんとなく覚えてるような…おっぱい飲んだり、オムツ替えられたり…」

メグミンの顔は、さらに赤くなった。

「…もう、その話はやめて…!」

カズマは、ニヤニヤしながら、メグミンを見つめた。

「…ふーん、そうか。つまり、俺はメグミンに、色々とお世話になったってわけだな」

メグミンは、むっとして、そっぽを向いた。

「…別に、大したことないわよ。ただ、カズマが困っていたから、助けてあげただけだもん」

カズマは、メグミンの肩に手を置いた。

「…ありがとう、メグミン。本当に感謝してる」

メグミンは、ドキドキしながら、カズマを見つめた。

「…どういたしまして…」

カズマは、メグミンの顔をじっと見つめた。そして、優しく微笑んだ。

「…あのさ、メグミン」

「…な、なに…?」

「…その、なんだ…」

カズマは、少し照れながら、言葉を続けた。

「…その間、色々、迷惑かけたよな。だから、何かお礼をしたいんだけど…」

メグミンは、期待に胸を膨らませた。

(…もしかして、告白される…?)

しかし、カズマの言葉は、メグミンの期待を裏切るものだった。

「…何か、欲しい物とかあるか?例えば、新しい杖とか…」

メグミンは、がっかりした。

「…べ、別に、何も欲しくないわよ…」

カズマは、首を傾げた。

「…そうか?でも、何かお礼をしないと気が済まないんだ。遠慮しないで言ってくれよ」

メグミンは、少し考え込んだ。そして、意を決して、カズマに言った。

「…じゃあ、お願いがあるんだけど…」

カズマは、嬉しそうな表情を浮かべた。

「…なんだ?言ってくれよ」

メグミンは、少し恥ずかしそうに、カズマに告げた。

「…その…しばらくの間、私のことを名前で呼んで…」

カズマは、目を丸くした。

「…え?名前で?メグミンのことを?」

メグミンは、顔を赤らめたまま、頷いた。

「…だ、ダメ…?」

カズマは、少し考え込んだ。そして、ニヤリと笑った。

「…いいぜ。でも、それだけじゃ割に合わないな。何か、見返りが欲しいんだけど…」

メグミンは、カズマの言葉に戸惑った。

「…み、見返り…?」

カズマは、メグミンの耳元で、囁いた。

「…例えば、メグミンからのキスとか…」

メグミンの顔は、一気に真っ赤になった。

「…ば、ばか…!そんなこと、できるわけないでしょ…!」

カズマは、笑いながら、メグミンをからかった。

「…冗談だよ、冗談。そんなに怒るなって」

メグミンは、カズマを睨みつけた。

「…もう、カズマなんか大嫌い…!」

そう言い残して、メグミンは部屋を飛び出して行った。

カズマは、一人残された部屋で、笑い転げていた。

「…あー、面白かった…」

カズマは、メグミンのことを、ますます好きになっていた。

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